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吾輩は猫である-第80章

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「なに鼠だから、どこに住んでてもそそっかしいのでしょう。だから下宿へ持って来てもまたやられそうでね。剣呑(けんのん)だから夜(よ)るは寝床の中へ入れて寝ました」

「少しきたないようだぜ」

「だから食べる時にはちょっとお洗いなさい」

「ちょっとくらいじゃ奇麗にゃなりそうもない」

「それじゃ灰汁(あく)でもつけて、ごしごし磨いたらいいでしょう」

「ヴァイオリンも抱いて寝たのかい」

「ヴァイオリンは大き過ぎるから抱いて寝る訳には行かないんですが……」と云いかけると

「なんだって? ヴァイオリンを抱いて寝たって? それは風流だ。行く春や重たき琵琶(びわ)のだき心と云う句もあるが、それは遠きその上(かみ)の事だ。明治の秀才はヴァイオリンを抱いて寝なくっちゃ古人を凌(しの)ぐ訳には行かないよ。かい巻(まき)に長き夜守(よも)るやヴァイオリンはどうだい。枺L君、新体詩でそんな事が云えるかい」と向うの方から迷亭先生大きな声でこっちの談話にも関係をつける。

枺L君は真面目で「新体詩は俳句と摺盲皮饯堡摔铣隼搐蓼护蟆¥筏烦隼搐繒殼摔悉猡ι伽飞懀à护い欷ぃ─螜C微(きび)に触れた妙音が出ます」

「そうかね、生霊(しょうりょう)はおがらを焚(た)いて迎え奉るものと思ってたが、やっぱり新体詩の力でも御来臨になるかい」と迷亭はまだ碁をそっちのけにして眨麘铮à椁茫─皮い搿

「そんな無駄口を叩(たた)くとまた負けるぜ」と主人は迷亭に注意する。迷亭は平気なもので

「勝ちたくても、負けたくても、相手が釜中(ふちゅう)の章魚(たこ)同然手も足も出せないのだから、僕も無聊(ぶりょう)でやむを得ずヴァイオリンの御仲間を仕(つかまつ)るのさ」と云うと、相手の独仙君はいささか激した眨婴

「今度は君の番だよ。こっちで待ってるんだ」と云い放った。

「え? もう打ったのかい」

「打ったとも、とうに打ったさ」

「どこへ」

「この白をはすに延ばした」

「なあるほど。この白をはすに延ばして負けにけりか、そんならこっちはと――こっちは――こっちはこっちはとて暮れにけりと、どうもいい手がないね。君もう一返打たしてやるから勝手なところへ一目(いちもく)打ちたまえ」

「そんな碁があるものか」

「そんな碁があるものかなら打ちましょう。――それじゃこのかど地面へちょっと曲がって置くかな。――寒月君、君のヴァイオリンはあんまり安いから鼠が馬鹿にして噛(かじ)るんだよ、もう少しいいのを奮発して買うさ、僕が以太利亜(イタリア)から三百年前の古物(こぶつ)を取り寄せてやろうか」

「どうか願います。ついでにお払いの方も願いたいもので」

「そんな古いものが役に立つものか」と何にも知らない主人は一喝(いっかつ)にして迷亭君を極(き)めつけた。

「君は人間の古物(こぶつ)とヴァイオリンの古物(こぶつ)と同一視しているんだろう。人間の古物でも金田某のごときものは今だに流行しているくらいだから、ヴァイオリンに至っては古いほどがいいのさ。――さあ、独仙君どうか御早く願おう。けいまさのせりふじゃないが秋の日は暮れやすいからね」

「君のようなせわしない男と碁を打つのは苦痛だよ。考える暇も何もありゃしない。仕方がないから、ここへ一目(いちもく)入れて目(め)にしておこう」

「おやおや、とうとう生かしてしまった。惜しい事をしたね。まさかそこへは打つまいと思って、いささか駄弁を振(ふる)って肝胆(かんたん)を砕いていたが、やッぱり駄目か」

 。。



十一 … 4

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「当り前さ。君のは打つのじゃない。ごまかすのだ」

「それが本因坊流、金田流、当世紳士流さ。――おい苦沙弥先生、さすがに独仙君は妗畟}へ行って万年漬を食っただけあって、物に動じないね。どうも敬々服々だ。碁はまずいが、度胸は据(すわ)ってる」

「だから君のような度胸のない男は、少し真似をするがいい」と主人が後(うし)ろ向(むき)のままで答えるやいなや、迷亭君は大きな赤い舌をぺろりと出した。独仙君は毫(ごう)も関せざるもののごとく、「さあ君の番だ」とまた相手を促(うなが)した。

「君はヴァイオリンをいつ頃から始めたのかい。僕も少し習おうと思うのだが、よっぽどむずかしいものだそうだね」と枺L君が寒月君に聞いている。

「うむ、一と通りなら誰にでも出来るさ」

「同じ芸術だから詩歌(しいか)の趣味のあるものはやはり音楽の方でも上達が早いだろうと、ひそかに恃(たの)むところがあるんだが、どうだろう」

「いいだろう。君ならきっと上手になるよ」

「君はいつ頃から始めたのかね」

「高等学校時代さ。――先生私(わたく)しのヴァイオリンを習い出した顛末(てんまつ)をお話しした事がありましたかね」

「いいえ、まだ聞かない」

「高等学校時代に先生でもあってやり出したのかい」

「なあに先生も何もありゃしない。独習さ」

「全く天才だね」

「独習なら天才と限った事もなかろう」と寒月君はつんとする。天才と云われてつんとするのは寒月君だけだろう。

「そりゃ、どうでもいいが、どう云う風に独習したのかちょっと聞かしたまえ。参考にしたいから」

「話してもいい。先生話しましょうかね」

「ああ話したまえ」

「今では若い人がヴァイオリンの箱をさげて、よく往来などをあるいておりますが、その時分は高等学校生で西洋の音楽などをやったものはほとんどなかったのです。ことに私のおった学校は田舎(いなか)の田舎で麻裏草履(あさうらぞうり)さえないと云うくらいな伲婴仕扦筏郡椤⒀¥紊饯钎籁ˉぅ辚螭胜嗓驈帲à遥─猡韦悉猡沥恧笠蝗摔猡ⅳ辘蓼护蟆!

「何だか面白い話が向うで始まったようだ。独仙君いい加減に切り上げようじゃないか」

「まだ片づかない所が二三箇所ある」

「あってもいい。大概な所なら、君に進上する」

「そう云ったって、貰う訳にも行かない」

「禅学者にも似合わん几帳面(きちょうめん)な男だ。それじゃ一気呵成(いっきかせい)にやっちまおう。――寒月君何だかよっぽど面白そうだね。――あの高等学校だろう、生徒が裸足(はだし)で登校するのは……」

「そんな事はありません」

「でも、皆(みん)なはだしで兵式体操をして、廻れ右をやるんで足の皮が大変厚くなってると云う話だぜ」

「まさか。だれがそんな事を云いました」

「だれでもいいよ。そうして弁当には偉大なる握り飯を一個、夏蜜柑(なつみかん)のように腰へぶら下げて来て、それを食うんだって云うじゃないか。食うと云うよりむしろ食いつくんだね。すると中心から梅干が一個出て来るそうだ。この梅干が出るのを楽しみに塩気のない周囲を一心不乱に食い欠いて突進するんだと云うが、なるほど元気旺盛(おうせい)なものだね。独仙君、君の気に入りそうな話だぜ」

「伲觿偨·扦郡韦猡筏蒿Lだ」

「まだたのもしい事がある。あすこには灰吹(はいふ)きがないそうだ。僕の友人があすこへ奉職をしている頃吐月峰(とげつほう)の印(いん)のある灰吹きを買いに出たところが、吐月峰どころか、灰吹と名づくべきものが一個もない。不思議に思って、聞いて見たら、灰吹きなどは裏の藪(やぶ)へ行って切って来れば誰にでも出来るから、売る必要はないと澄まして答えたそうだ。これも伲觿偨·螝蒿Lをあらわす美譚(びだん)だろう、ねえ独仙君」

 。。



十一 … 5

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「うむ、そりゃそれでいいが、ここへ駄目を一つ入れなくちゃいけない」

「よろしい。駄目、駄目、駄目と。それで片づいた。――僕はその話を聞いて、実に驚いたね。そんなところで君がヴァイオリンを独習したのは見上げたものだ。 独(けいどく)にして不羣(ふぐん)なりと楚辞(そじ)にあるが寒月君は全く明治の屈原(くつげん)だよ」

「屈原はいやですよ」

「それじゃ今世紀のウェルテルさ。――なに石を上げて勘定をしろ? やに物堅(ものがた)い性伲à郡粒─坤汀?倍à筏胜盲皮鈨Wは負けてるからたしかだ」

「しかし極(きま)りがつかないから……」

「それじゃ君やってくれたまえ。僕は勘定所じゃない。一代の才人ウェルテル君がヴァイオリンを習い出した逸話を聞かなくっちゃ、先祖へ済まないから失敬する」と席をはずして、寒月君の方へすり出して来た。独仙君は丹念に白石を取っては白の穴を埋(う)め、蛉·盲皮宵の穴を埋めて、しきりに口の内で計算をしている。寒月君は話をつづける。

「土地柄がすでに土地柄だのに、私の国のものがまた非常に頑固(がんこ)なので、少しでも柔弱なものがおっては、他県の生徒に外聞がわるいと云って、むやみに制裁を厳重にしましたから、ずいぶん厄介でした」

「君の国の書生と来たら、本当に話せないね。元来何だって、紺(こん)の無地の袴(はかま)なんぞ穿(は)くんだい。第一(だいち)あれからして乙(おつ)だね。そうして塩風に吹かれつけているせいか、どうも、色がい汀D肖坤椁ⅳ欷菧gむが女があれじゃさぞかし困るだろう」と迷亭君が一人這入(はい)ると肝心(かんじん)の話はどっかへ飛んで行ってしまう。

「女もあの通りい韦扦埂

「それでよく貰い手があるね」

「だって一国中(いっこくじゅう)ことごとくい韦坤槭朔饯ⅳ辘蓼护蟆

「因果(いんが)だね。ねえ苦沙弥君」

「し饯いい坤恧ΑIà胜蓿─赴驻い如Rを見るたんびに己惚(おのぼれ)が出ていけない。女と云うものは始末におえない物件だからなあ」と主人は喟然(きぜん)として大息(たいそく)を洩(も)らした。

「だって一国中ことごとく堡欷小Ⅻい方で己惚(うぬぼ)れはしませんか」と枺L君がもっともな伲鼏枻颏堡俊

「ともかくも女は全然不必要な者だ」と主人が云うと、

「そんな事を云うと妻君が後でご機嫌がわるいぜ」と笑いながら迷亭先生が注意する。

「なに大丈夫だ」

「いないのかい」

「小供を連れ
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