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吾輩は猫である-第59章

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「只今御宅へ伺いましたところで、ちょうどよい所で御目にかかりました」と藤(とう)さんは鄭寧(ていねい)に頭をぴょこつかせる。

「うむ、そうかえ。実はこないだから、君にちょっと逢いたいと思っていたがね。それはよかった」

「へえ、それは好都合でございました。何かご用で」

「いや何、大した事でもないのさ。どうでもいいんだが、君でないと出来ない事なんだ」

「私に出来る事なら何でもやりましょう。どんな事で」

「ええ、そう……」と考えている。

「何なら、御都合のとき出直して伺いましょう。いつが宜(よろ)しゅう、ございますか」

「なあに、そんな大した事じゃ無いのさ。――それじゃせっかくだから頼もうか」

「どうか御遠懀Г胜

「あの変人ね。そら君の旧友さ。苦沙弥とか何とか云うじゃないか」

「ええ苦沙弥がどうかしましたか」

「いえ、どうもせんがね。あの事件以来胸糞(むなくそ)がわるくってね」

「ごもっともで、全く苦沙弥は剛慢ですから……少しは自分の社会上の地位を考えているといいのですけれども、まるで一人天下ですから」

「そこさ。金に頭はさげん、実業家なんぞ――とか何とか、いろいろ小生意気な事を云うから、そんなら実業家の腕前を見せてやろう、と思ってね。こないだから大分(だいぶ)弱らしているんだが、やっぱり頑張(がんば)っているんだ。どうも剛情な奴だ。驚ろいたよ」

「どうも損得と云う観念の乏(とぼ)しい奴ですから無暗(むやみ)に痩我慢を張るんでしょう。昔からああ云う癖のある男で、つまり自分の損になる事に気が付かないんですから度(ど)し難(がた)いです」

「あはははほんとに度(ど)し難(がた)い。いろいろ手を易(か)え品を易(か)えてやって見るんだがね。とうとうしまいに学校の生徒にやらした」

「そいつは妙案ですな。利目(ききめ)がございましたか」

「これにゃあ、奴も大分(だいぶ)困ったようだ。もう遠からず落城するに極(きま)っている」

「そりゃ結構です。いくら威張っても多勢(たぜい)に無勢(ぶぜい)ですからな」

「そうさ、一人じゃあ仕方がねえ。それで大分(だいぶ)弱ったようだが、まあどんな様子か君に行って見て来てもらおうと云うのさ」

「はあ、そうですか。なに訳はありません。すぐ行って見ましょう。容子(ようす)は帰りがけに御報知を致す事にして。面白いでしょう、あの頑固(がんこ)なのが意気銷沈(いきしょうちん)しているところは、きっと見物(みもの)ですよ」

「ああ、それじゃ帰りに御寄り、待っているから」

「それでは御免蒙(ごめんこうむ)ります」

おや今度もまた魂胆(こんたん)だ、なるほど実業家の勢力はえらいものだ、石炭の燃殻(もえがら)のような主人を逆上させるのも、苦悶(くもん)の結果主人の頭が蠅滑(はえすべ)りの難所となるのも、その頭がイスキラスと同様の呙岁垼à沥ぃ─毪韦饨詫g業家の勢力である。地球が地軸を廻転するのは何の作用かわからないが、世の中を動かすものはたしかに金である。この金の功力(くりき)を心得て、この金の威光を自由に発摚Г工毪猡韦蠈g業家諸君をおいてほかに一人もない。太陽が無事に枺槌訾啤o事に西へ入るのも全く実業家の御蔭である。今まではわからずやの窮措大(きゅうそだい)の家に養なわれて実業家の御利益(ごりやく)を知らなかったのは、我ながら不覚である。それにしても冥頑不霊(めいがんふれい)の主人も今度は少し悟らずばなるまい。これでも冥頑不霊で押し通す了見だと危(あぶ)ない。主人のもっとも貴重する命があぶない。彼は鈴木君に逢ってどんな挨拶をするのか知らん。その模様で彼の悟り具合も自(おのず)から分明(ぶんみょう)になる。愚図愚図してはおられん、猫だって主人の事だから大(おおい)に心配になる。早々鈴木君をすり抜けて御先へ帰宅する。

 。。



八 … 10

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鈴木君はあいかわらず眨婴韦いつ肖扦ⅳ搿=袢栅辖鹛铯问陇胜嗓悉婴摔獬訾丹胜ぁⅳ筏辘说堡暾希à丹铮─辘韦胜な篱g話を面白そうにしている。

「君少し顔色が悪いようだぜ、どうかしやせんか」

「別にどこも何ともないさ」

「でも蒼(あお)いぜ、用心せんといかんよ。時候がわるいからね。よるは安眠が出来るかね」

「うん」

「何か心配でもありゃしないか、僕に出来る事なら何でもするぜ。遠懀Г胜皮そoえ」

「心配って、何を?」

「いえ、なければいいが、もしあればと云う事さ。心配が一番毒だからな。世の中は笑って面白く暮すのが得だよ。どうも君はあまり陰気過ぎるようだ」

「笑うのも毒だからな。無暗に笑うと死ぬ事があるぜ」

「冗談(じょうだん)云っちゃいけない。笑う門(かど)には福来(きた)るさ」

「昔(むか)し希臘(ギリシャ)にクリシッパスと云う哲学者があったが、君は知るまい」

「知らない。それがどうしたのさ」

「その男が笑い過ぎて死んだんだ」

「へえⅳ饯い膜喜凰甲hだね、しかしそりゃ昔の事だから……」

「昔しだって今だって変りがあるものか。驢馬(ろば)が銀の丼(どんぶり)から無花果(いちじゅく)を食うのを見て、おかしくってたまらなくって無暗(むやみ)に笑ったんだ。ところがどうしても笑いがとまらない。とうとう笑い死にに死んだんだあね」

「はははしかしそんなに留(と)め度(ど)もなく笑わなくってもいいさ。少し笑う――適宜(てきぎ)に、――そうするといい心持ちだ」

鈴木君がしきりに主人の動静を研究していると、表の門ががらがらとあく、客来(きゃくらい)かと思うとそうでない。

「ちょっとボ毪@入(はい)りましたから、取らして下さい」

下女は台所から「はい」と答える。書生は裏手へ廻る。鈴木は妙な顔をして何だいと聞く。

「裏の書生がボ毪蛲イ赝钉厕zんだんだ」

「裏の書生? 裏に書生がいるのかい」

「落雲館と云う学校さ」

「ああそうか、学校か。随分騒々しいだろうね」

「騒々しいの何のって。碌々(ろくろく)勉強も出来やしない。僕が文部大臣なら早速椋фiを命じてやる」

「ハハハ大分(だいぶ)怒(おこ)ったね。何か癪(しゃく)に障(さわ)る事でも有るのかい」

「あるのないのって、朝から晩まで癪に障り続けだ」

「そんなに癪に障るなら越せばいいじゃないか」

「誰が越すもんか、失敬千万な」

「僕に怒ったって仕方がない。なあに小供だあね、打(うっ)ちゃっておけばいいさ」

「君はよかろうが僕はよくない。昨日(きのう)は教師を呼びつけて談判してやった」

「それは面白かったね。恐れ入ったろう」

「うん」

この時また門口(かどぐち)をあけて「ちょっとボ毪@入(はい)りましたから取らして下さい」と云う声がする。

「いや大分(だいぶ)来るじゃないか、またボ毪坤季

「うん、表から来るように契約したんだ」

「なるほどそれであんなにくるんだね。そう⒎证盲俊

「何が分ったんだい」

「なに、ボ毪蛉·辘摔朐匆颏怠

「今日はこれで十六返目だ」

「君うるさくないか。来ないようにしたらいいじゃないか」

「来ないようにするったって、来るから仕方がないさ」

「仕方がないと云えばそれまでだが、そう頑固(がんこ)にしていないでもよかろう。人間は角(かど)があると世の中を転(ころ)がって行くのが骨が折れて損だよ。丸いものはごろごろどこへでも苦(く)なしに行けるが四角なものはころがるに骨が折れるばかりじゃない、転がるたびに角がすれて痛いものだ。どうせ自分一人の世の中じゃなし、そう自分の思うように人はならないさ。まあ何だね。どうしても金のあるものに、たてを突いちゃ損だね。ただ神経ばかり痛めて、からだは悪くなる、人は褒(ほ)めてくれず。向うは平気なものさ。坐って人を使いさえすればすむんだから。多勢(たぜい)に無勢(ぶぜい)どうせ、叶(かな)わないのは知れているさ。頑固もいいが、立て通すつもりでいるうちに、自分の勉強に障ったり、毎日の業務に煩(はん)を及ぼしたり、とどのつまりが骨折り損の草臥儲(くたびれもう)けだからね」

「ご免なさい。今ちょっとボ毪wびましたから、裏口へ廻って、取ってもいいですか」

「そらまた来たぜ」と鈴木君は笑っている。

「失敬な」と主人は真赤(まっか)になっている。

鈴木君はもう大概訪問の意を果したと思ったから、それじゃ失敬ちと来(き)たまえと帰って行く。

入れ代ってやって来たのが甘木(あまき)先生である。逆上家が自分で逆上家だと名仱胝撙衔簦à啶─筏槔伽胜ぁⅳ长欷仙佟〾浃坤胜纫櫍à丹龋─盲繒rは逆上の峠(とうげ)はもう越している。主人の逆上は昨日(きのう)の大事件の際に最高度に達したのであるが、談判も竜頭蛇尾たるに係(かかわ)らず、どうかこうか始末がついたのでその晩書斎でつくづく考えて見ると少し変だと気が付いた。もっとも落雲館が変なのか、自分が変なのか疑(うたがい)を存する余地は充分あるが、何しろ変に摺胜ぁ¥い橹醒¥坞Oに居を構えたって、かくのごとく年が年中肝癪(かんしゃく)を起しつづけはちと変だと気が付いた。変であって見ればどうかしなければならん。どうするったって仕方がない、やはり医者の薬でも飲んで肝癪(かんしゃく)の源(みなもと)に賄賂(わいろ)でも使って慰撫(いぶ)するよりほかに道はない。こう覚(さと)ったから平生かかりつけの甘木先生を迎えて圆欷蚴埭堡埔姢瑜Δ仍皮α恳姢蚱黏筏郡韦扦ⅳ搿Ytか愚か、その辺は別問睿趣筏啤ⅳ趣摔苑证文嫔悉藲荬钉い郡坤堡鲜鈩伲à筏澶筏绀Γ─沃尽⑵嫣兀à嗓─涡牡盲仍皮铯胜堡欷肖胜椁蟆8誓鞠壬侠韦搐趣摔长摔长嚷浃沥膜瓛Bって、「どうです」と云う。医者は大抵どうですと云うに極(き)まってる。吾輩は「どうです」と云わない医者はどうも信用をおく気にならん。

「先生どうも駄目ですよ」

「え、何そんな事があるものですか
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